宣伝せよ!

企業からゲリラまでどんな組織であれ、構成員を増やすために何らかの宣伝を行っています。

宣伝を行うには「外の世界」の人間に自分達の「常識」を簡潔に伝える必要があります。

つまり、彼らの側からこちらの流儀を用いて彼らの世界観を伝えようとしているわけで、「宣伝(プロパガンダ)」は異常世界研究の入口として最適な資料です。

宣伝にはパンフレットや街宣など様々な形態がありますが、ここでは「映像」に焦点を当ててみようと思います。

映像は視覚・聴覚両方に働きかけ、なおかつ場所を選ばないため、宣伝には絶好のメディアでしょう。

そして、使用されている素材には彼らが自ら撮影したものもありますから、彼らの内部をリアルに覗くことも出来ます。

勿論、その素材は恣意的に選ばれているものですから、全てを信用することはできません。あくまで、彼らの「空気」が感じ取れるだけです。

異常世界の人々が創意工夫をこらして制作した宣伝映像を集めてみました。

「戦いの炎」(Flames of War)

2015年 / アル・ハヤート・メディアセンター(al-hayat) / イスラーム国

イスラーム国(ISIL)は、2014年6月に「国家」を宣言した、イラクとシリアを中心に活動するイスラム武装組織です。本映像は、2015年7月にインターネット上で公開されたもので、英語が用いられていることから、非イスラーム圏に向け発信されたものと思われます。戦闘の映像が中心で、映像効果を巧みに用いています。イスラーム国はインターネット上に数多くの映像を投稿しており、ネット時代を代表するテロ組織としてしばしば名前が挙がりますが、こうした映画調の映像はDVDにして上映されることもあるそうです。

「赤軍―PFLP世界戦争宣言」

1971年 / 若松プロダクション・若松孝二 / 日本赤軍・パレスチナ人民解放戦線

日本赤軍は、海外の小国を乗っ取って日本に対して戦争を起こし共産主義革命を行う計画の下レバノンに渡ったテロ組織で、これは巨匠・若松孝二監督らが活動を始めたばかりだった日本赤軍を取材した映画。当時は監督らがバスに上映機材を載せて自主上映していたようです。クレジットには「日本赤軍」と書きましたが、正確には当時は明確な組織名は決まっていませんでした。彼らと協力関係にあったパレスチナゲリラ・PFLPの映像が中心ですが、リーダー・重信房子の喋るシーンや「連合赤軍」結成の瞬間など、貴重な映像も含まれています。

「街のIRA、町のIRA」(IRA on our streets and in our countryside)

1996年 / 不明 / アイルランド共和軍・暫定派

タイトルの訳に自信がありません。北アイルランドの独立を求め、かつてイギリスで猛威を振るったテロ組織「IRA暫定派」(IRAは合法政党とテロ組織に分裂しています)が制作したビデオ。彼らは爆弾テロを得意としており、各地で爆破事件を起こしてイギリス軍に少なからぬ打撃を与え、イギリス国民を恐怖に陥れました。本映像にはそうした爆破の映像や、デモやハンストの様子、イギリス軍との戦闘などが収録されています。ナレーションはなくIRAに関する音楽がBGMとして延々流れているだけなので、英語がわからなくてもある程度楽しめます。

「リヤドの聖戦」(Badr, al-Riyadh)

2004年 / アッサハブメディア財団(As-Sahab Foundation for Media Production) / アル・カーイダ

アル・カーイダといえば、言わずと知れたアメリカ同時多発テロを実行し、その後も多国籍軍を相手に数多くのテロを実行したイスラム武装組織です。最初の指導者であるウサーマ・ビン・ラーディンは2011年にアメリカ軍によって殺害され、現在はアイマン・ザワーヒリーが組織を受け継いでいます。これは、アル・カーイダが2004年2月に発表した宣伝ビデオで、サウジアラビアの首都リヤドで前年に行ったテロ活動の様子を中心に取り上げています。当時はVCDに焼いて地下販売していたようです。2枚分の内容を1本に繋げました。英語字幕が付いています。

「興亜大日本」

1940年 / 国光教育映画社 / 大日本帝国

日米開戦の前年に公開された、大日本帝国の国策映画です。児童教育用に制作されたものとみられ、皇国史観や東亜新秩序など、当時の体制を支配していた思想が非常に分かり易くまとまっています。それ以外にも当時の「家族」の考え方など、内容の端々から現代とはかなり異なる常識が垣間見えます。宇宙から始まるオープニング、「人種平等案」と書かれた風船が萎んでいく演出なども面白いです。どこかしらの倉庫から発掘されたフィルムのため、映像はかなり劣化しています。

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